上咽頭炎の治療(EAT治療)
上咽頭とは
のど(咽頭)は上・中・下咽頭の3つ分けられます。そして、上咽頭は鼻咽腔とも言われ、鼻の一番奥で、鼻と咽頭との境界部分を指します。
上咽頭の働き
上咽頭はリンパ組織であり、その粘膜表面にはリンパ球が多数存在し、「免疫応答の場所」として活躍します。小児期には咽頭扁桃として「感染防御の場所」として働きますが、成人になると色んな物に反応する「易反応の場所」になります。
上咽頭炎とは
呼吸で取り入れた空気は必ず上咽頭を通過します。色々な原因で炎症を起こし、多彩な全身症状が出ます。診断、治療が困難で、慢性化する厄介です。
原因
次のような原因があります。
- 細菌やウィルスの感染
- アレルギー性鼻炎
- 疲労
- ストレス
- 気温や湿度の急激な変化など
症状
上咽頭は脳神経である舌咽神経、迷走神経、そして自律神経とも繋がっているため、次のように多彩な症状がでます。
- 疼痛:頭、顔、鼻、目、耳、歯、のどなどの痛み
- 鼻の症状:鼻閉、鼻汁、後鼻漏
- 耳の症状:耳閉感、難聴、耳鳴りなど
- のどの症状:咳、痰、声がれ、違和感など
- 自律神経の症状:全身倦怠感、めまい、疲労、睡眠障害、胃腸障害など
診断
診断には内視鏡検査が必要です。特に当院にあるようなNBI機能を持った内視鏡があれば、診断は容易です。しかし、色々な全身症状が出るため、耳鼻咽喉科以外の診療科(脳神経外科、呼吸器内科、消化器内科など)を受診するため、診断が困難で、遅れてしまうことが多くあります。
治療
原因が感染やアレルギーによる急性炎症の場合、抗生物質やステロイド剤で効果があります。しかし、原因が疲労、ストレスや空調変化による場合や慢性炎症の場合は次のような治療を行います。
- 鼻洗浄(鼻うがい):1%の食塩水で上咽頭を洗い流す。鼻洗器が必要です。医療機器として当院にもあります(税抜価格4500円)。
- EAT治療(Epipharyngeal Abrasive Therapy):13歳以上で行います。約70%の人に効果があります。
- 手術治療
・アデノイド切除術:小児で慢性炎症の場合、全身麻酔下での手術を薦めています。この場合は他院(総合病院)に紹介しています。
・上咽頭粘膜焼灼術: EAT治療で効果がない場合に薦めています。約70%の人に効果があります。手術を希望される方は手術1,2週間前に血液検査を行います。また、遠方から来られる方は、金曜日に手術を受けて頂いて、当日は必ず姫路に宿泊して頂き、次の日の土曜日にご来院をお願いしております。
EAT治療とは
Epipharyngeal Abrasive Teraphy (上咽頭擦過療法)の頭文字をとったものです。
一般的治療ではなく、日本の一部の耳鼻咽喉科でしか行っていない治療です。
1960年代、山崎春三先生(大阪医大初代耳鼻科教授)および堀口申作先生(東京医科歯科大初代耳鼻科教授)が開始した治療法です。0.5%~1%塩化亜鉛水溶液を上咽頭に強く擦りつけ、擦過による出血と疼痛の程度で、炎症の程度を判断し、診断と治療の指標とします。当院では1%塩化亜鉛水溶液を用いて、この治療を行っています。
EAT治療の効果
EAT治療を10~15回行った場合、治療効果は症状により差がありますが、約70%と言われています(1999年大野、國弘らの報告)。
- めまい:76.7%
- 頭痛:72.0%
- 耳閉感:71.1%
- 咽頭痛:67.2%
- 肩こり:67.2%
- 咽頭異物感:66.7%
- 後鼻漏:64.0%
- 耳鳴り:62.5%
上咽頭粘膜焼灼術とは
この手術は一般的ではありませんが、内視鏡を用いてアルゴンプラズマ凝固機器で上咽頭を焼灼、凝固します。手術時間は約10分で、約70%の人に効果があります。詳しくは“上咽頭粘膜焼灼術”をご覧ください。
上咽頭炎は慢性化すると厄介
上咽頭の炎症が慢性化すると、全身の離れた場所に炎症を引き起こします二次疾患(自己免疫疾患)を起こすことがあります。これを扁桃病巣感染症と言い、次のような病気があります。
扁桃病巣感染症
- 腎臓:IgA腎症、溶連菌感染後腎炎、突発性腎出血など
- 関節:胸肋鎖骨過形成症、慢性関節リュウマチなど
- 皮膚:掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、アレルギー性紫斑病など
- その他:ベーチェット病、持続する微熱など
当院における慢性上咽頭炎の治療
当院では慢性上咽頭炎に対して、まず鼻洗浄を薦めています。鼻洗浄で効果がない場合はEAT治療を行っています。症状が改善しない場合には上咽頭粘膜焼灼術も行っています。お気軽にご相談ください。