鼻の手術
※ 手術を希望される方は、 まずお電話にて「手術希望」とご予約ください。
インターネット予約は、しないでください。
診察の際に、手術の説明をします。 手術日は、診察当日ではなく、後日になります。
アレルギー性鼻炎の手術
図1:下鼻甲介粘膜の凝固範囲
花粉症や通年性アレルギー性鼻炎で、症状が中等度以上の方に行います。アレルギー反応の主な場所である両側の下鼻甲介粘膜を凝固します(図1)。色々な手術方法がありますが、アルゴンプラズマ凝固法が長期的な効果が期待できるため、当院ではこの方法を行っています。
花粉症の方は、11月~12月の間に手術をされるのが良いと思います。
下甲介粘膜レーザー焼灼術
(1) 使用する器械
アルゴンプラズマ凝固装置(Argon Plasma Coagulator : APC)は、アルゴンガスと高周波装置を結合させた手術器械です(写真1)。プローブ(写真2)先端からイオン化されたアルゴンガスを噴射し、高周波電流を流します。このArgon Plasma Beamで下鼻甲介を均一に凝固するため、炭酸ガスレーザー法などその他の方法に比べて効果的です。術後3ヶ月で鼻閉には98%、鼻水には78.4%、くしゃみには60%の改善率があり、2~3年間効果が持続すると言われています。
- 写真1:アルゴンプラズマ凝固装置
- 写真2:(APC)プローブ
- 写真3:Argon Plasma Beamで 下鼻甲介を凝固
(2) 手術前処置
麻酔:鼻内に浸潤麻酔および局所麻酔液の注射を行います。
点滴:鎮静剤、鎮痛剤などが入っている点滴をします。
モニター機器装着:血圧計などのモニター機器を体に付けます。
綿花挿入:鼻の奥にのどへのタレ込み防止用の綿花を入れます。このため、鼻では呼吸が出来なくなります。
(3) 手術
寝た状態で内視鏡を用いて下鼻甲介後方までAPCを用いて凝固します。手術は両鼻約10分で終わります(写真3)。
術後約1週間は下鼻甲介粘膜に滲出物(かさぶた)が付くため鼻が詰まりますが(写真4、5、6)、約2週間後には粘膜の腫れもなくなり、アレルギーの症状は 改善します(写真7)。この手術は、アレルギー体質の根本的治療法ではないため、2~3年後にアレルギー粘膜が再生し、再手術を行う必要があります。
- 写真4:術前
- 写真5:術後2日
- 写真6:滲出物(かさぶた)
- 写真7:術後2週間
経鼻腔的翼突管神経切除術(選択的後鼻神経切断術)
図2:後鼻神経(翼突管神経後鼻枝)の切断方法。当院では図の3の部位で後鼻神経を切断しています。
アレルギー性鼻炎の症状を改善する手術で、通年性アレルギー性鼻炎やレーザー手術が無効な場合に行われます。
翼突管神経とは鼻の知覚と鼻水の分泌を調節する自律神経の一つです。この神経は鼻の奥の蝶口蓋孔と呼ばれる骨の穴から鼻腔に入り、鼻中隔粘膜を支配する枝(翼突管神経鼻中隔枝)と鼻腔の外側粘膜を支配する後鼻神経(翼突管神経後鼻枝)に枝分かれします。その後、後鼻神経は鼻腔の外側粘膜上方(上鼻甲介、中鼻甲介)を支配する上枝(後鼻神経上枝)と鼻腔の外側粘膜下方(下鼻甲介)支配する下枝(後鼻神経下枝)に枝分かれします。この後鼻神経の上枝、下枝を切断する手術により、鼻水は8~9割、くしゃみは3~5割改善することができ、長期的な治療効果があります。
翼突管神経切断術には3つの方法があります。1974年に野村らが経上顎洞法を日本で最初に報告しました(図2の1の部位で切断)。しかし術後出血などの合併症があるため、1998年に黄川田らが経鼻腔法に変更して報告しました。この方法は蝶口蓋動脈と後鼻神経を一緒に超音波凝固装置を用いて切断します(図2の2の部位で切断)。2010年に朝子らが更に末梢で(下鼻甲介内で)後鼻神経を切断する方法を報告しました(図2の3の部位で切断)。この方法は選択的後鼻神経切断術とも言われています。経鼻腔法で行うこの2つの方法は、入院が必要で全身麻酔下で行い、治療効果に差はないと報告されています。そして、2023年に川村らが局所麻酔下で選択的後鼻神経切断術を行うことが可能であると報告しています。
当院では、まず、粘膜下下鼻甲介骨切除術を行い、その後に選択的後鼻神経切断術を両側同時に局所麻酔下で行っています。この手術は内視鏡下で行うため出血も少なく、日帰りで安全に行えます(図2)。
(1) 手術前処置
麻酔:手術を行う鼻内に浸潤麻酔および局所麻酔液の注射を行います。
点滴:鎮静剤、鎮痛剤などが入っている点滴をします。
モニター機器装着:心電図、血圧計などのモニター機器を体に付けます。
スポンジ挿入:鼻の奥にのどへのタレ込み防止用のスポンジを入れます。
(2) 手術
まず、寝た状態で粘膜下下鼻甲介骨切除術を行い、その後に後鼻神経を切断します。手術時間は両鼻で約75分です。
(写真8)手術の実際:左粘膜下下鼻甲介骨切除術を施行し(➀)、その後に後鼻神経の枝を切断する(②、③)。
神経再生を予防するため自家骨(下鼻甲介骨)を留置する(④)。
(3) 術後成績
当院では、2024年12月末までに合計103症例の選択的後鼻神経切断術を行っています。下鼻甲介内で行う手術方法は合併症として術後出血が0.6%~3%の頻度で起こると報告されています(2023年川村ら)。当院で行った症例では術後出血は1例もありませんでした。自覚症状が80%以上改善した症例を検討すると、鼻水が98例/103例で95%、くしゃみが88例/103例で85%、鼻閉が103例/103例で100%でした。鼻閉は粘膜下下鼻甲介骨切除術による効果と思われますが、症状の改善度が高く、そしてこれが長期間続いています。
鼻閉(鼻詰まり)の改善手術
この手術は、アレルギー性鼻炎、いびき症や睡眠時無呼吸症候群などの鼻詰まり、軽症の鼻詰まりに対して行います。内視鏡を用いて下鼻甲介の粘膜下組織を減量し、鼻閉を改善させる手術です。当院では、(1)下鼻甲介切除術(高周波治療器使用)と、(2)粘膜下下鼻甲介骨切除術を行っています。これらの手術は、日帰りで安全に行 え、鼻閉に対して長期的効果が得られます。
下鼻甲介切除術(高周波治療機器使用)
アレルギー性鼻炎、いびき症などの軽症の鼻詰まりに対して、高周波治療機器を用いた下鼻甲介切除術を行っています。
(1) 使用する機器
高周波治療機器:高周波電極針を下鼻甲介に刺入し、組織を凝固、瘢痕化させて、減量を図ります。
(2) 手術前処置
麻酔:手術を行う鼻内に浸潤麻酔および局所麻酔液の注射を行います。
点滴:鎮静剤、鎮痛剤などが入っている点滴をします。
モニター機器装着:血圧計などのモニター機器を体に付けます。
綿花挿入:鼻の奥に喉へのタレ込み防止用綿花を入れます。このため、鼻では呼吸が出来なくなります。
(3) 手術
図1:手術の実際
寝た状態で、両鼻とも同時に行います。
内視鏡を用いて高周波電極針を下鼻甲介に刺入し、下鼻甲介の深部まで減量を図ります(図1)。手術時間は約15~20分です。
手術後約1~2週間は下鼻甲介が腫れるため、鼻が詰まりますが、それ以降は改善します(写真1)。
- 写真1:鼻腔の所見 右鼻腔(手術前)
- 鼻腔の所見 左鼻腔(手術前)
- (術後2週間)
- (術後2週間)
粘膜下鼻甲介骨切除術
いびき症や睡眠時無呼吸症候群など重症の鼻詰まりには、下鼻甲介切除術を用いる方法では改善できません。この様な場合、当院では下鼻甲介内の骨を除去して減量を図る粘膜下下鼻甲介骨切除術を行っています。
(1) 手術前処置
麻酔:手術を行う鼻内に浸潤麻酔および局所麻酔液の注射を行います。
点滴:鎮静剤、鎮痛剤などが入っている点滴をします。
モニター機器装着:心電図、血圧計などのモニター機器を体に付けます。
スポンジ挿入:鼻の奥にのどへのタレ込み防止用のスポンジを入れます。このため鼻では呼吸ができなくなります。
(2) 手術
寝た状態で、下鼻甲介前方に切開を入れ、その深部まで剥離を行い、軟骨を除去します(図2・写真2)。手術時間は両鼻で約30分です。
- 写真2:右鼻腔(術前)
- 右鼻腔(術後)

図2:手術のシェーマ
鼻中隔矯正術(鼻中隔弯曲症の術)
鼻の穴を左右に隔てている壁を鼻中隔(びちゅうかく)といいます。鼻中隔は軟骨と骨(篩骨垂直板、鋤骨)で構成されています。思春期までの成長過程でこの軟骨と骨も成長していき、軟骨が湾曲することがあります。これが鼻中隔湾曲症の生じる主な原因で、その他に鼻に打撲や骨折といった外傷も原因になります。このために鼻閉やいびき、嗅覚障害などの症状が出ます。根本的治療には鼻中隔矯正術が必要です。
(1) 手術前処置
麻酔:手術を行う鼻内に浸潤麻酔および局所麻酔液の注射を行います。
点滴:鎮静剤、鎮痛剤などが入っている点滴をします。
モニター機器装着:心電図、血圧計などのモニター機器を体に付けます。
スポンジ挿入:鼻の奥にのどへのタレ込み防止用のスポンジを入れます。このため鼻では呼吸ができなくなります。
(2) 手術
寝た状態で、手術を行います。
手術は硬性内視鏡を用いて行います。鼻中隔粘膜の左側前部皮膚(通常は前部粘膜)に切開を加え、鼻中隔軟骨と骨の両側を剥離します。そして、鼻背、鼻尖から10mm~15mm離して、図の①、②、③、④の順に、弯曲した軟骨と骨を可能な限り切除、摘出します。手術時間は約30分です(図3)。この手術方法により、鼻中隔の前方湾曲も改善でき、そして外鼻の変形および鞍鼻などの合併症を防ぐことができます。局所麻酔下で安全に行うことが可能です。
手術後約1~2週間は鼻が詰まりますが、それ以降は改善します。
(図3)手術方法
皮膚粘膜移行部より前方の皮膚を切開し、可能な限り前方の湾曲を改善させる。
鼻背・鼻尖より10~15mmを温存し、外鼻の変形、鞍鼻などの合併症を防ぐ。
写真3:術前CT検査:鼻中隔が右方向に湾曲している。
写真4:術前の右鼻腔と左鼻腔
写真5:術後の右鼻腔と左鼻腔
内視鏡下鼻副鼻腔手術(慢性副鼻腔炎の手術)
慢性副鼻腔炎の手術には鼻茸切除術、内視鏡下鼻副鼻腔手術などがあります。当院では、鼻内内視鏡手術は、まず片方の手術を行い、2~3週間後に反対側を行っています。
(1) 使用する機器
パワー・システム(写真1):その先端に回転するシェーバー・メスやバーを取り付けることができる手術器具です。メスとバーは各種あり(写真2)、切除、削開した組織を吸引除去する器械です。
このシステムにより手術時間や出血量が従来に比べて大幅に減少しました。
内視鏡:各種内視鏡を用いて、副鼻腔内をモニター画面に映し出しながら、手術を行います。
- 写真1:パワー・システム
- 写真2:各種シェーバー・メスとドリル
(2) 手術前処置
麻酔:まず、手術を行う鼻内に浸潤麻酔および局所麻酔液の注射を行います。
点滴:鎮静剤、鎮痛剤などが入っている点滴をします。
モニター機器装着:心電図、血圧計などのモニター機器を体に付けます。
スポンジ挿入:鼻の奥にのどへのタレ込み防止用スポンジを入れます。このため、手術を行う方の鼻では呼吸が出来なくなります。
(3) 手術
寝た状態で手術を行います。この手術の主な目的は、副鼻腔の病巣をできる限り除去、開放し、その通気性を良くすることにあります。
1.鼻茸切除、2.篩骨洞開放術、3.上顎洞開放術、4.前頭洞開放術、5蝶形洞開放術などを行います(写真3、4)。
鼻茸切除だけであれば数分で完全除去ができます。1~5の操作まで行うと約45分かかります。
写真3:術前の右鼻腔:鼻茸(矢印)を認めます。
写真4:手術の実際:右の①中鼻道、②上顎洞、③篩骨洞、④前頭洞、⑤蝶形洞を順次開放している。
(4) 手術後の管理
手術後は、抗生物質を約1~2週間服用し、毎日鼻洗浄器(術後に購入)で鼻洗浄を行ってもらいます。副鼻腔術創の感染を予防できれば、 術後約2~3ヶ月でほぼ治癒します(写真5)。しかし、アレルギー性鼻炎、好酸球性副鼻腔炎の人は治癒が遅れたり、再発したりすることがあるため、厳重な経過観察が必要になります。
写真5:術後3ヶ月の局所所見:右の①中鼻道、②上顎洞、③篩骨洞、④蝶形洞は十分開放され、ほぼ完治の状態にあります。