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コロナ後遺症

コロナ後遺症とは

新型コロナウイルス感染症にかかった後、ほとんどの方は時間経過とともに症状が改善します。しかし、一部の方で長引く症状があることがわかってきました。これをコロナ後遺症と言います。
この実態については、まだ不明な点が多く、また新型コロナウイルス感染症との因果関係も十分には分かっていません。
世界保健機関(WHO)は、コロナ後遺症を次のように定義しています。

  • 新型コロナウイルスに罹患した人にみられる。
  • 症状が発症から3ヶ月以内にでて、少なくとも2ヶ月以上続く。
  • 他の病気による症状として説明がつかない。

コロナ後遺症の症状

次のような症状があります。

全身症状 呼吸器症状 精神・神経症状 その他の症状
  • 倦怠感
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 息切れ
  • 胸部痛
  • 記憶障害
  • 集中力の低下
  • 頭痛
  • 不眠
  • 抑うつ状態
  • 味覚障害
  • 嗅覚障害
  • 動悸
  • 下痢
  • 腹痛
  • 脱毛
  • めまい

コロナ後遺症の原因と疾患

コロナ後遺症の原因については、まだ不明点が多く分かっていません。
Stein SRらは「新型コロナウィルス感染後30日以上経過しても、上気道、心血管系、中枢神経系、リンパ節などの全身臓器にコロナウィルスが残存していた。」と剖検した症例で確認、報告しています(2022年、Nature)。
この報告により新型コロナウィルス感染は上気道から始まり、全身臓器に波及しコロナ後遺症を引き起こす可能性があると考えられるようになりました。

器質的疾患としては次のようなものがあります。

  • 間質性肺炎(肺線維症)
  • 亜鉛欠乏症
  • 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
  • 副腎不全
  • 特発性関節炎
  • 睡眠時無呼吸症候群など

間質性肺炎などの肺以外の疾患としては、亜鉛欠乏症が76.6%と最も多く、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)が37.8%、副腎不全が4.1%、特発性関節炎および睡眠時無呼吸症候群が3.1%であったと報告されています。
しかし、精神・心理的要因が大きな割合を占めることもあるため、コロナ後遺症には器質的疾患と精神・心理的要因に対する多角的な治療アプローチが必要と考えられています。

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)とは

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は「これまで健康に生活していた人が、ある日突然原因不明の全身倦怠感に襲われ、それ以降強度の疲労感、微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、思考力障害、抑うつ等の精神神経症状が長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなる疾患である。」と定義されています。
社会復帰が困難となるため、コロナ後遺症の中でも注意すべき疾患と言われています。

コロナ後遺症に対するEAT治療

コロナ後遺症に中等度または重度の慢性上咽頭炎を高率に認めたと数多く報告されています。
そして、上気道の急性感染が引き金となり、上咽頭の免疫を活性化し、脳の免疫系を活性化するサイトカイン(TNF-αなどの神経興奮分子)を産生し、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関連する脳の軽度の炎症を引き起こすことも報告されています。

すなわち、コロナ後遺症に見られる筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)様の症状は新型コロナウィルス感染後の慢性上咽頭炎によって引き起こされる可能性があること示しています。

西らはコロナ後遺症例では上咽頭にコロナウィルスが残存し、上咽頭のサイトカイン(TNF-αおよびIL-6)が増加していることを確認しています。
そして、EAT治療(上咽頭擦過治療)を週2回2ヶ月間行うことによりこれらのサイトカインが治療前に比べて低下したことも報告しています(2022年、Cureus)。

今まで、コロナ後遺症による頭痛、疲労や筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)などの治療は、高圧酸素治療や高濃度ビタミンC点滴などの対症治療しかないと言われていましたが、EAT治療が効果的であると脚光を浴びることになりました。
このことは、2022年5月日本耳鼻咽喉科学会総会のパネルディスカッションでも取り上げられました。

当院でのコロナ後遺症の治療法は

当院では次のような耳鼻咽喉科領域のコロナ後遺症治療を行っています。

(1) 嗅覚障害

静脈性嗅覚検査(アリナミン試験)を行い、嗅覚神経障害が疑われれば、ステロイド点鼻薬、当帰芍薬散内服薬を処方します。また、重症例では嗅覚トレーニングを追加で行います。
嗅覚トレーニングとは積極的ににおいを嗅ぐことで、におい成分を嗅粘膜に届け、嗅神経細胞、嗅神経への刺激し、脳ににおい成分の情報を伝達するトレーニングです。嗅神経細胞は死滅しても再生すると言われており、嗅覚トレーニングは嗅神経細胞の再生を活性化させます。

写真1 : 嗅覚トレーニングキット
(Smell Restore:3300円)

(2) 味覚障害、亜鉛欠乏症

「必須ミネラル」と呼ばれる人間の生命活動に必要不可欠なミネラルには亜鉛、鉄、銅、カルシウム、ナトリウムなどがあります。亜鉛が不足すると味覚障害、倦怠感、下痢、脱毛、成長障害などの症状が出てきます。
まず、血液検査で血清亜鉛を測定し、正常値以下であれば亜鉛内服薬を処方します。

(3) 慢性上咽頭炎、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)

令和5年10月現在、コロナ後遺症で当院を受診した症例は合計84例あり、内視鏡検査で全例に慢性上咽頭炎を認めました。その内12例(14%)に疲労、頭痛、全身倦怠感を認め、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と診断しました。
まず、亜鉛欠乏症、副腎不全による全身倦怠感、慢性疲労を除外診断するために、一般血液検査の他、血清亜鉛、コルチゾール、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を測定します。
これらの数値が正常で、内視鏡検査により上咽頭炎を認めれば、慢性上咽頭炎およびこれによる筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と診断できます。この場合、EAT治療(上咽頭擦過治療)を週1~2回、合計約15回行い、症状の改善を判定します。そして、EAT治療が無効な症例に対しては、アルゴンプラズマ凝固機器による上咽頭粘膜焼灼術(出力30W以上で焼灼)を提案しています。

(4)副腎不全

血液検査の結果、コルチゾールの数値が低い場合、副腎不全と判断します。
副腎不全が軽症の場合、高圧酸素治療、高濃度ビタミンC点滴、マルチビタミン内服などの治療を行います。しかし重症の場合、ステロイドホルモンの補充療法が必要であるため、内分泌内科に紹介します。この場合、ステロイドホルモンの長期投与による全身的な合併症が問題になります。

当院における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)症例の呈示

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の症例に対して、EAT治療および上咽頭粘膜焼灼術を行いました。自覚症状がほぼ完治した2症例を呈示します。

症例1:50代、男性

令和4年8月コロナウィルス感染後より、後鼻漏、痰、咳、睡眠障害などの症状が出現し、当院を受診しました。内視鏡検査でコロナ感染に伴う上咽頭炎と診断し、ステロイド内服薬などを処方し、EAT治療を開始しました。EAT治療を計13回行いましたが、症状は全く改善せず、さらには全身倦怠感、疲労、脱力感、不眠、抑うつ状態などの症状が悪化してきました。職場復帰は全くできていなかったため、同年9月に上咽頭粘膜焼灼術(出力40W)を日帰りで行いました。

写真2:手術前後の上咽頭内視鏡所見

手術後頭痛が約1ヶ月間続きましたが、手術後5ヶ月で全身倦怠感、咳、痰などの症状は完治し、健全な日常生活が可能となり、職場復帰もできました。また、手術後10ヶ月で睡眠障害、後鼻漏は完治し、ふらつきは95%改善しました。

症例2:40代、男性

令和4年8月コロナウィルス感染後より、頭痛、全身倦怠感、後鼻漏、痰、睡眠障害が出現しました。そして、脱力感、不眠、そして脱毛、味覚・嗅覚障害などの症状も加わり、職場復帰が全くできないため、当院を受診しました。内視鏡検査でコロナ感染に伴う上咽頭炎と診断しました。静脈性アリナミン試験(嗅覚検査)で中程度嗅覚障害を認め、血清亜鉛は低値でした。当帰芍薬散(内服薬)、ステロイド点鼻薬、ノベルジン(亜鉛製剤:内服薬)を処方し、EAT治療を開始しました。EAT治療を計13回施行しましたが、症状は全く改善しないため、令和4年12月上咽頭粘膜焼灼術(出力30W)を日帰りで行いました

写真3:手術前後の上咽頭内視鏡所見

手術後頭痛が約1週間続きましたが、手術後6ヶ月で全身倦怠感、睡眠障害、咳、痰、嗅覚・味覚障害は完治し、健全な日常生活が可能となり、職場復帰もできました。また、手術後8ヶ月で後鼻漏は90%改善しました。

症例1と症例2を比較すると、上咽頭粘膜焼灼術を出力40Wで行った方が30Wより、職場復帰は約1ヶ月早くなりました。しかし、手術後の頭痛が出力40Wでは約1ヶ月続くのに対して、30Wでは約1週間と短くなりました。
手術後の合併症(頭痛など)を考えて、現在は30Wで上咽頭粘膜焼灼術を行っています。

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